「公式より圧倒的に安くClaudeが使える」という話を持ちかけられたら、まず疑ってほしい。海外で報じられたグレー市場サービスの実態は、安さの裏側で自社のプロンプトを丸ごと他人に見られるという話だった。
何が起きたか
セキュリティ企業Okta傘下の脅威インテリジェンスチームが、「Poison Claude」と名付けられたグレー市場サービスを報告した。The Hacker News・Help Net Security・cyberpress・gbhackers・cybersecuritynewsなど、複数の海外セキュリティメディアが2026年8月上旬に一致して報じている。
手口はこうだ。
- クラウドサービスの新規登録特典・無料クレジットを使い、大量のアカウントを作る
- それらのアカウントの利用枠をバックエンドでプールし、1つの窓口(プロキシ)にまとめる
- 顧客には、Anthropic公式価格のおよそ5〜15%という価格でAPIアクセスを再販する
- 対応モデルはOpus 4.8・4.7・4.6、Sonnet 4.6とされ、決済は暗号資産のみ(USDT・USDC・ETH・LTC・BTCなど)を受け付ける
- 購入した顧客は、Claude Codeなどの接続先を公式エンドポイントではなくPoison Claude側のサーバーに向けるよう案内される
このサービス自体の設定ミスにより、ステータス確認用のAPIエンドポイントが外部に露出し、登録ユーザー881人・アクティブユーザー872人という利用規模が明らかになった(本セッションでは一次ブログ(okta.com)へのWebFetchがネットワーク側でブロックされ直接確認できなかったが、上記の複数の独立した海外メディアがこの数字・価格帯・決済方法で一致して報じている範囲を採用している)。
なぜ「安く使えて助かる」で終わらないのか
理屈は単純だ。プロンプトを公式のAnthropicエンドポイントに直接送るのではなく、業者のプロキシを経由させる以上、その業者はリクエストの中身——つまり自社の設計書・顧客データ・社内のやり取りを含みうるプロンプト全文——を平文で見られる立場にある。中継しているだけだから安全とは限らない。見えている以上、保存も、転売も、技術的には可能だ。
しかもこの手のサービスが成り立っている土台は「クラウドの無料クレジットを不正に大量取得したアカウント」であり、いつアカウント停止・サービス停止に巻き込まれるか分からない。業務のAI利用がある日突然使えなくなるリスクを、自社では把握もコントロールもできない業者に預けることになる。
また、Anthropicの利用規約はアカウントの共有・転売を禁じており、公式にも「一部のユーザーによるアカウントの共有・転売がほかの利用者の使用可能量を圧迫している」という趣旨の注意喚起を行っている。規約違反のサービスを踏み台にして自社の業務データを流している、という構図そのものが、取引先や顧客に説明できない状態だ。
中小企業が実務で押さえるべき3点
- AIサービスの契約・接続先は「誰が承認したか」を必ず残す:現場の担当者が「安いから」と個人の判断で非公式な再販サービスと契約してしまうと、会社として何がどこに流れているか誰も把握できなくなる。契約・支払い・接続設定の変更は、必ず決裁を通す運用にする
- 接続先エンドポイントを勝手に変更できないようにする:Claude Codeなどのツールがどのエンドポイントに接続しているかは、導入時に固定し、環境変数の変更を現場が自由にできない設計にしておく。「公式より安い」という営業文句自体が、非公式な中継ルートへの誘導である可能性を疑うべきサインになる
- 価格だけで比較しない調達基準を持つ:座席プラン・従量課金それぞれの公式価格を把握したうえで、極端に安い選択肢が出てきたら「なぜその価格が成立するのか」を必ず問う。成立の理由が説明できないサービスは、たいてい別の誰かのコスト(=データやアカウントの不正利用)で成り立っている
コスト削減の誘惑も、構造で止める
以前扱ったトークン消費量の実測記事では、公式の仕組みの中でコストを可視化し設計する方法を紹介した。今回のケースはその対極にある話で、コストを下げたい気持ちにつけ込んで公式の外側に誘導する手口だ。「安さ」に釣られて接続先ごと明け渡してしまえば、可視化も設計もできなくなる。ベンダーの規約や公式価格を無視した近道を選ばない——これもハーネスの考え方の一部だ。
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